塾長便り STUDY CAMP 無料塾運営のイロハ 狩猟

食事つき無料塾の塾長がコロナ禍で実行に移した、「狩猟」と言う選択

投稿日:2020年11月17日 更新日:

ご存知の通り2014年の開塾以来、当塾はいわゆる子ども食堂とは違う立場で活動する「食事つき無料学習施設」であり、塾にせよ自習室にせよ国内におけるその草分け的な存在であることに私はこだわりと誇りを持っている。

そして今でこそ継続して東京ワセダロータリークラブ(敬称略)が肉などのタンパク源を、セカンドハーベスト・ジャパン(敬称略)などのフードバンクがその他食材を提供してくれるため以前より食材に関する悩みは減ったと言えるが、支援を得られるまでの数年間はかなりの額を持ち出していたため、その費用をいかに稼ぐかで頭を悩ませていたと言っても過言ではない。

第二波のコロナウィルス感染拡大が確定報道された記憶のないまま夏が過ぎ、今改めてしれっと第三波の感染拡大が懸念される中、当塾への支援を続けることの出来る有志が減って来ている現状を考えれば、またその苦しみが訪れるやもしれない。

そこで私は「食事つきの学習施設」を継続するためにも、春から温めて来た準備を遂に実行することにした。

それは今夏に取得した第一種銃猟とわなによる狩猟免許を使い、実際に我が手で「獲物を獲る」と言う選択である。

✅群馬への移住とハンターになる決意

2020/11/15 群馬県の猟友会で先輩猟師が仕留めた猪と鹿。 

毎年11月15日に解禁される狩猟の時期に合わせて上記二種類の狩猟免許を今年の夏に取得した私は、5年前に移住した群馬県前橋市近くの猟友会に所属し、一人の見習いハンターとして無事15日の日曜日、小規模ないわゆる「巻狩」に加わり狩猟デビューを果たすことが出来た。

目的は前述した塾生への「タンパク源の確保」に向けた実践練習と、移住した群馬への「害獣駆除」と言う名の地域貢献である。

「初日だし、誰かが獲った獲物の処理を見たり引きずったりするくらいだろうなぁ。まぁ写真を撮れるだけでも御の字かな。」などと、気楽に考えていたがとんでもない。現場に到着するやいなや、先輩猟師はライフルで仕留めたばかりの日本鹿を指差し、「いい機会だから、内臓を取って処理してみな。」と新入りの私ともう一人の女性メンバーに言うのだ。

寒さをしのぐための手袋はあるものの、内臓を取り出すための用意などノーマークだった私達二人の新入りは、ひとまずスーパーの破れたレジ袋で手を守りつつ、撃たれたばかりで湯気の出る鹿の内臓を山中で取り出すと言う、貴重な経験をすることが出来た。

肌寒い山中で、先ほどまで生きていた大型動物の血と体温を感じながら、「散弾ならもっと手間だろうなぁ。。。」などと思いつつ冷静に内臓を剥がし、なお5,60kgほどの雌鹿を、そのベテラン猟師と二人で300mほど先にある軽トラに引きずりつつ運んだのだが、前脚を一本ずつ握りながら山の斜面を登るのは、予想以上に辛い作業だった。

数ヶ月、ジムに通って準備をして来なければ途中で音を上げたか、または身体のどこかを悪くしていただろう。
しかしこの日は幸いにも、使命を果たすことが出来た。その達成感と言えば、ここ数年の生活では感じたことがないほどに清々しい疲れだったと言える。

実際に食材となった獲物を子ども達に提供出来るかどうか、ハンターとしてスタート地点に立ったばかりの今は正直わからない。しかし少なくとも、いざとなった時には「いただきます」の言葉に込められた本来の意味を、この日の経験に基づく言葉で子ども達に伝えることくらい、出来る立場になった気がしている。

✅「嫌いなら残せ」と言う給食指導への違和感

そもそもなぜ、現代社会ではおよそ一般的とは言い難い狩猟を塾に導入しようと考えるに至ったのか、少し動機を書きたい。

これは子ども達に食事を提供する無料塾運営の中で、長年感じていた違和感であり経験に基づく話なのだが、平成や令和の多くの学校では嫌いな食材が給食に出た場合は思い切って残すよう、子ども達に指導するらしい。

そのせいだろう。2014年の開塾以来ずっと言えることだが、当塾への通塾期間の短い生徒は無料・有料(受入数:全体の二割まで)の世帯を問わず、偏食傾向が強いと感じている。そしてそれは私が10月末、Yahoo!ニュースに寄稿した事例のように満足に食べられない家庭の子どもですら例外ではないのだ。消費ばかりを肯定する社会システムが支えている教育の現場が、食べ物を残すことに罪悪感を持たない子どもを量産している一つの証と言えよう。

今年の夏、80歳で亡くなった酒乱の父が家で暴れる際、母の手料理を外に投げ捨てたことは4月に寄稿したYahoo!ニュースの別記事に書いたが、食べられることなくゴミに変えられた命の犠牲を見るたび、私は父が投げ捨てた母の手料理の記憶まで蘇ってしまう。いわゆる、トラウマと言うやつだ。

日本での食品廃棄物が年間2,700万トンを超え、そのうちの約1/4にあたる約640万トンがまだ食べられるにも関わらずゴミとされてしまう、いわゆる「フードロス」を生み出す背景は、犠牲となる命への感謝の気持ちを失くした人間一人一人のエゴである。

「面倒くさい」などと現状を看過しては、豊かな次世代など築けないことは今更私が言うまでもないだろう。

✅残飯削減が果たせていた塾での指導方針と、自習室での課題

50人の小中学生+スタッフ約20名による残飯が、ほぼ残らなくなっていた2017-2019の証拠写真

だからこそ、の話である。

当塾では食べられない食材はよそらない、もしくは友達や先生に食べてもらえるよう言葉がけを行うことで、上記写真のような残飯削減に成功して来た経験を持つ。

しかし手作りの晩ご飯を出せず、心ある調理ボランティアに自習室へ来てもらうことすらままならないコロナ禍の現状では、カップラーメンやレトルトなど簡易的な食品しか置くことは出来ず、子ども達の心に自然な形で感謝の気持ちを育てることは難しい。食材となった命の重みや、調理してくれる人への実感が出来ないのは正直仕方のない環境なのだ。

昭和時代の学校でよく目にした、給食を食べきれず昼休みの時間まで解放されない子ども達のように、彼らの自由を奪ってまで無理矢理食べさせようとは思わないが、せめて犠牲になった動植物の命を感じさせることができるよう、私はSTUDY CAMPにおける食事の環境を今後も少しずつ調整していきたいと思う。

具体的な方法はその都度、公開したい。支援者への感謝を込めて。

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