当無料塾は勉強を教えるだけでなく温かい給食を顔の見える人たちが作り、提供することにこだわりを持っています。
なぜなら、
- 安心しながら夕食を食べられる環境を提供することで、学生講師&スタッフと子どもたちが相互に信頼関係を築く助けになるから。
- 学習の効果を高めるには脳の動力源、すなわちアミノ酸などさまざまな栄養が必要不可欠だから。
- みんなで食べる楽しい食事を通じて社会性を育てると同時に、最低限の食事マナーを学ぶ経験の場が大切だから。
- 育ち盛りの時期にお腹いっぱい食べなければ、体が大きくならないから。
- たとえ週に一回でもお母さんが子どもの食事を気にせずに済む時間を作ることができれば、子どもに優しくなれる時間が増えるかもしれないから。
などなど、給食はさまざまな効果があるからです。
しかし国内の食料事情にも教育システム同様さまざまな社会問題が潜むがゆえに、たとえ教育格差がテーマの当塾でも食べ物を提供しているとさまざまな軋轢や葛藤に直面することが多いと感じています。
【大量に余った、赤いタコさんウィンナー】
近年さまざまなシチュエーションで食の安全が叫ばれているせいか、成長期の子どもまでもが必要以上に食品添加物を気にして、食べ物を残す姿をよく見かけます。
一例として、二年目の話を書きましょう。
開塾当初の2014〜2015年度、ステップアップ塾は現在の北山伏町ではなく早稲田大学文学部キャンパス横にある民間のフリースペース「フェニックスラウンジ」で行っていました。食事は同系列店「フェニックスカフェ」にて、一人当たり400円で提供してもらう給食の分業スタイルです。
当時、お店では通常450〜750円ほどで出されているチキンライスなどの美味しい洋食をオーナーの計らいで特別に割り引いて提供していただいていましたが、ある日昭和世代には懐かしいナポリタン・スパゲティを主食に、「タコさんウィンナー」とキャベツがおかずの一品として出されました。
当時の生徒数と講師数を合わせ約35人分の調理の中で、少なくともお店は利益よりもおかずを増やすことで子どもたちにお腹いっぱい食べてもらおうとウィンナーを出してくれたに違いありません。はっきり書けば、お店側の好意です。
しかし大半の子どもたちは、躊躇せずにウィンナーを残しました。添加物の塊とも言えるカップラーメンやコンビニ弁当を食べ、コカ・コーラが大好物だと公言していた子どもまでもが当たり前のように、赤いだけでウィンナーを敵視したのです。
「赤い添加物は食べちゃダメっていう教育をされてるんだろうなぁ。。。食の安全を意識するのはわかるけど、まずは体を大きくするべき成長過程の子どもたちにインスタントラーメンやファミレスでの外食は許すのに、摂取量的にわずかであろう着色料だけを敵視する中途半端な食育を教えるのは、正しいことなのだろうか???」
塾が存在する第一義は学習能力の向上です。しかし食材として犠牲になった命や人の好意に無頓着な子どもたちを生み出す社会の現実を見て、正直私の心はとても痛みました。
【国内流通量1%と言われるオーガニック市場から見えてきたもの】
話は変わりますが先日、とある方たちのご縁でオーガニックライフスタイルEXPOと言う、有機食材・衣類業界のイベントに参加をしました。
昨年の8月、子どもの誕生に合わせて群馬に住所を移し、都内生活と田舎暮らしの二重生活を送る身としては、幸運にも普段から安くて美味しい野菜に囲まれているのであまり積極的な共感を感じられないオーガニック市場でしたが、どうやら有機の世界ではオーガニック3.0と呼ばれる複合的な視点でパラダイムシフトが起こっているらしいのです。
3.0を要約すれば、国内流通量1%と言われ富裕層向けになりがちなオーガニック商品の供給量を業界全体で高め、安全な食品や衣類を誰でも買うことのできるよう、地球環境の回復までを大義に据えた決意表明とのこと。
簡単なことではないと思いますが、有機業界が特定のお金持ちだけを対象とせずに流通を増やし、農薬を使わずに生産コストを下げられる方法を確立できるのであれば、着色料など添加物を必要としない社会は実現可能かもしれません。
可能性を追求しようとする姿勢があるだけでも進歩的であり、素敵な試みです。
ただファミレスやファーストフード、コンビニ業界や回転寿しなどで私たちが安く食事が出来る主な理由は、
- 農薬によって野菜の安定供給が実現し、
- 食品添加物によって食材のロスが減り、
- 中国やブラジルなどから安価で輸入される食材を商社が探してくるお陰
と言っても現状、過言ではありません。
とは書きつつ、たとえ無料の給食だろうが安全な食品を求める保護者の気持ちも理解はできます。だからこそ日々の努力が実を結び、幸運にも今年度から有機野菜(提供:らでぃっしゅぼーや)や国産のお肉(提供:東京ワセダロータリークラブ&八洋)などをいただくことのできる支援体制が当塾には整いましたが、あくまでもこれは過分なラッキーをいただけただけのこと。言わばラッキーパンチに過ぎません。
香ばしい無添加ハムと無添加ソーセージを提供するサイトウハムの試食をイベント会場の中でいただきながら独り考えていたことは、国内のいたるところでガイドラインがないまま中途半端に行われているであろう子どもたちや保護者への食育はどのように補正されるべきか、でした。考えるきっかけを、茶色いソーセージから香る燻香が教えてくれたように思います。
給食を提供する無料塾が抱える課題の一つの備忘録として駄文・長文を掲載しましたが、お許しいただきたいと思います。
濱松 敏廣
「子ども時代に感じたDV家庭での不条理を、他の子ども達にまで感じさせたくない。」
そんな想いで、ステップアップ塾を開塾しました。
子ども目線での「有ったらいいな。」を忘れずに、食事つきを前提とした無料学習支援を実施しています。
ヤフーニュースへの寄稿
・「おんぶ」をせがむ小・中学生たち 生育環境で得られなかった「愛」を求めて
・学習塾の自粛で”居場所”失う子たち
・子どもの「スマホ依存」、どう向き合うべきか?取り上げることが「解決」ではない場合も
・“教育格差”是正に向けた1つのヒント 個別指導型オンライン学習のメリデリ
・食べられない子どもたちの現実 “SOS”を見逃さないために大人ができること
誕生日:1976年7月2日
出 身:東京都板橋区
学 歴:明治大学経営学部卒
現 職
・NPO法人維新隊ユネスコクラブ/理事長
・ステップアップ塾/塾長
・株式会社MACH2/代表取締役